パーマカルチャーとヨガ 2023年連続講座 最終回
2023年の『パーマカルチャーとヨガ』連続講座、11月に最終回を終えました。
講座は半年間、毎月一回あんのん舘を会場に集まり、午前中は2階のスタジオあわいでヨガの瞑想や体操、身体や心のお話を。お昼にココハネのベジご飯を囲み、午後はパーマカルチャーの講義や創作活動を行なってきました。
最終回は特別編として、私たちが農を営む神戸市北区へ遠足をし、いつもお世話になっている大先輩農家のお二人にお話を伺うことにしました。
パーマカルチャーは、1960年代にオーストラリアで体系づけられた学問。一方、ヨガはインドで派生し、様々な哲学や宗教の影響を受けながら3千年以上の歴史を持つとされます。どちらも外来のものと思われがちですが、パーマカルチャーは東アジアの農法や日本の里山に継がれる知恵を含む、伝統的社会から永続性を見い出し、確立されたもの。またヨガは仏教に内包され、その伝来とともに日本の自然観と習合し、禅の文化として定着しているものであると言えます。(現代では、アメリカから伝来したフィットネス・ヨガが「ヨガ」としての地位を得ている感がありますが…)それぞれに、私たち日本人が古来より大切にしている倫理観や哲学の源泉であり、洗練でもあるように思います。
地域に根差し、自然に習った農を営む方々はその反映であるように、日本の原風景や日本人の心を作ってきたものだと感じます。そのような農家さんの持つ自然心や哲学をみんなでお聞きしたいと思い、最終回の遠足を企画しました。
さて、訪ねたお一人目は、北区大沢町で、農地と里山を他地域や次世代につなぐ活動を担ってこられた岩田恪夫さん。
この日のお話は、戦国時代から幕末まで三田藩主を勤めた久鬼家のお話から始まりました。幕藩体制下の石高制や参勤交代によって藩主の力量が問われ、また地域の盛衰に大きな影響を与えていたことがわかります。久鬼家最後の藩主となった隆義の開明的な考え方は、西洋文化時代の潮流に乗り、事業や人材育成を成功させていったのだそう。三田ゆかりの人々をご紹介いただき、活躍した偉人から現代が形作られていくストーリーが、まさに私たち自身へ連なっているのだと感じることができました。
そこから貸し農園「神付ふるさと村」を立ち上げた経緯や、実際に形にしていくまでのお話へと転じます。神付ふるさと村の広大な敷地は、兵庫県下最大の約25,500平米。農地を整備するために地域の理解を得て、地主さんの土地をまとめ、そこに何トンもの土を運び入れてきたこと。そのご苦労は並大抵ではなかったと想像できますが、農業の衰退と地域力の低下を食い止めようと動いた岩田さんの信念や熱意に周囲が動かされていった様子が窺えます。また、農地の養分と水源を、そしてすべての命を支えてくれる森の大切さを多くの人と分かち合いたい、と整備を続ける「産土の森」には、仏さんが鎮座しているそう。「いつも見守ってくれている」と、その確かな存在に対する感謝のこころを教えてくれました。いつも高い目標を持って、突き動かされるように実現してきた岩田さんの原動力が垣間見えたような気がして、心が震える時間でした。
午後に訪ねたお二人目は、北区長尾町で有機稲作の農産グループ「命根の稲」を運営する久山敬二さん。
私たちがお店で提供するお米や、お味噌の黒豆を一緒に栽培させてもらい、稲作文化や農の豊かさを受け取ることができているのも、 実に久山敬二さん・夏紀さんご夫妻のおかげです。命根の稲の活動では、日本人の食の中心であるお米と黒豆の有機栽培に取り組む一方、生業とされているのは、トマトの水耕栽培。農薬や化学肥料を一定量使いながらも、より安全で美味しい野菜作りに挑戦されています。
長尾町に到着すると、まずは農地の説明を。小さな棚田の一番上には貯水池があり、その下に何枚かの田んぼ、農機や農具を納めているビニールハウスと、命根の稲メンバーが区画分けして野菜を作っている畑エリア、その下は小麦・蕎麦・黒豆を栽培する共同の畑エリア。一年を通して、たくさんの実りが与えられていることを改めて感じます。
この日の久山さんのお話は、農業や農地の役割、現代の食の課題、さらには農薬は一体悪なのだろうか?という問いかけも。午前中には岩田さんから、戦後の農の転換期に地主として行動された「光」の部分を、そして、久山さんからは転換期以降に第一線で農を営む「影」ともなる実態をお聞きし、両面がコントラストに見えてきます。
現代、日本の食を支えているのは化学肥料や農薬を使った慣行農業。そのおかげで多くの命を繋ぐことができていることに感謝を持ちつつも、効率化・大規模化・国際化を推し進めてきたことで、永続性といった自然への近接、農そのものの中に楽しさや喜び、尊さを見出してきた農文化や哲学を失ってしまったのではないか、とも思えるのです。農業人口も農地も減少の一途を辿っているのは、経済的な事情ばかりではないのでしょう。環境にも人を含むあらゆる生き物にも、安全で豊かな選択とは何か?生産者と消費者の垣根を超えて一人一人ができることはなんだろう?今後もそれぞれが考え続けるべく、大切な宿題を持ち帰らせてもらいました。
さて、お話を聞いた後は、同じ集落内にある私たちの畑へ移動します。
これから冬を迎える畑には、玉ねぎ・ニンニク・ねぎ・白菜・ロメインレタス・ケール・キャベツ・スイスチャード・そら豆・グリーンピース・ダイコン・ニンジン・カブ・ビーツ・かき菜・イチゴなどがゆっくりと育っているところ。さつま芋と落花生を収穫し、大根を間引いて、夜の打ち上げ用に持ち帰りました。
遠足も然り、半年間の講座を通して、心に届けられたことはあっただろうか。これからの人生の糧となったであろうか。そんな不安を常に抱えながらも、お一人お一人の素晴らしい感性に出逢えたこと、ひとつひとつの機会に感謝を捧げ、パーマカルチャーとヨガの講座を終了しました。
All photos by: Toru Imamura