深夜、フト目が覚めて、私のベッドの傍らに眠る三歳になる娘の寝顔を見た。 こんな深夜に突然目覚めるのも、多分この私が六七歳という老年期に入ったからだろう。 それにしても、なんという生命(いのち)の不思議だろうか。 私の手の中にスッポリと入ってしまいそうな愛くるしい小さな顔、小さな目、小さな鼻と口。 微かな寝息が聴えてくる。 私は、人差指を立ててソット娘の小さな手に添えてみた。 娘は、眠ったままキュッキュッと2度試すように手を開いたり閉じたりした後、そのか細い5本の指で、しっかりと私の節くれ立った人差指を握り締めた。 私達が住むこの宇宙は、およそ百四十億年前、時間も空間も物質もない無の虚空から、突如起った大爆発、ビッグバンに依ってこの世に生み出された、と現代の物理学は説明している。 この大爆発から数千億を超える銀河が生れ、その銀河のひとつひとつに一千億から四千億もの星々が生れ、そんな星のひとつ太陽の周りに地球が生れ、その地球の上に初めての生命(いのち)が誕生し、その生命が三十八億年の進化を遂げて、今ここにこの小さなひとつの生命が、私の節くれ立った指先をしっかりと握り締めて眠っている。
完璧なまでに美しく、美しいが故にあまりにも儚(はかな)いひとつの生命。この生命が、自らの意志と力で母なる星地球(ガイア)の上にしっかりと立ち、時空を超えた全ての生命との繋がりの中で、人間として生れた使命を全うする姿を、この私が、今生の身体を通して見届ける保障はなにひとつない。しかし、だからこそ私達には、今、ここで果さなければならない責務がある。
私達は、百四十億年前の宇宙の始まりの時を想うことができるほどの“想像力”を与えられた。しかし、その“想像力”を、自分だけの利便と安楽のためだけに使い、自らの生命が、三十八億年の、いや、百四十億年の全ての存在との繋がりの中で“生かされている”というまぎれもない事実を忘れ去ってしまった。その結果が、今起り始めている大災害の予兆であり、悲惨な人心の荒廃である。母なる星地球は、自らを蝕む病原菌を駆逐する為に、早晩、最大限の自己治癒力を発揮するだろう。それは、二十一世紀に生れ育つ子供達が、未曾有の苦難の道を歩まなければならないことを意味する。
私達人間が、今、ここで果さなければならない責務とは、自分の生命が、自分以外の全ての存在との繋がりの中で“生かされている”という事実を思い出すことだ。私達ひとりひとりが、日々の全ての営みの中で、この“想像力”を取り戻すことだ。
私は、1989年、この映画シリーズをスタートするに当って、タイトルを「地球(ガイア)交響曲(シンフォニー)」と定め、「地球の声が聴えますか?」という呼びかけから始めた。 巨大な生命体であるこの地球のシステムは、今、この一瞬にもライブ演奏されている「交響曲」のようなものだ、と直感したからだった。
「交響曲」は、その曲に依って、演奏者に依って、楽器に依って、聴衆に依って、一回一回全て違った”音楽”としてこの世に生み出される。しかし、その違いにもかかわらず、全ての「交響曲」がめざす唯ひとつの目的は、その場に、その時にしか生れない、美しく壮大な調和(ハーモニー)の “音楽” を創造することだ。 私は、この宇宙の成り立ちも、母なる星地球の生命システムも、生態系も、人間の体や心の仕組みも、社会や文化の構造も、この世の全ての存在は、刻一刻と変化しながら生(ライブ)演奏されてゆく“音楽”のようなものだ、と思っている。
もし、母なる星地球に、いやこの宇宙そのものに「大いなる意志」があるのだとすれば、それは、この宇宙に次々と多様な“音”を生み出しながら、止まることもなく変化する調和の“音楽”を奏で続けることではないだろうか。
調和の音楽を生み出すためには、その演奏に参加する全ての存在が、自分以外の存在が奏でる“音”に耳を澄まさなければならない。他の存在が奏でる“音”を聴くことに依って、今この一瞬に自分が奏でるべき“音”が生れ、その“音楽”が他の存在が奏でる“音楽”と響き合って、壮大で美しい調和の“音楽”が自ずと創造されてゆくのだ。
今、私達人間は、明らかに調和を乱す“不協和音”を奏でている。調和を求める宇宙の「大いなる意志」に依って、私達そのものが抹消されてしまうのか、それとも、新たな調和の音楽の創造に参加することができるのか、その選択は私達自身に委ねられている。 今こそ私達は、自分以外の存在が奏でる“音”を聴く“第三の耳”を開かなければならない。耳には聴えない“音楽”を聴く“想像力”を取り戻さなければならない。それが、第六番のテーマを「音」と定めた私の動機であった。 さっきまで私の指を握り締めていた娘が手を離した。 小さな足で思い切り蒲団を撥ね上げたかと思うと、体をグルリと半回転させ、その足をドカンと私の顔の上に降ろした。 寝息は、相変らず続いていた。
「全ての存在は、時空を超えて響き合っている」
龍村仁
各映画はそれぞれで独立したストーリーを持っているため、これまでの作品を見ていなくても理解できるものです。
ぜひお誘い合わせの上お運びいただけたらと思います!
◎ 12月上映作品:
『地球交響曲(ガイアシンフォニー) 第六番』
◎ 上映場所:
あんのん舘2階 studio awai(西宮市田中町4-9)
◎ 上映日時:①〜⑤(いずれかを選択ください)
① 11/26 (日) 18:15~10:30
② 12/6 (水) 13:00~15:15
③ 12/10 (日) 15:00~17:15
④ 12/20 (水) 13:00~15:15
⑤ 12/24 (日) 15:00~17:15(満席のため受付を終了しました)
◎チケット代:a)b) いずれかを選択ください。
a) 映画+上映後のお茶付きシェア会 1,500円
b) 映画のみ 1,300円
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